鳥羽絵とばゑ
長唄 本名題『八重九重花姿絵』 作詞者・作曲者・初演年不詳

鳥羽絵は鳥羽僧正覚猷に始まるという戯画で、手足の細長い人物がおどけて動く。その絵にならって、瓢箪で押さえてもぬらりくらりと滑る鯰の趣向から起こし、廓の口説き、按摩や瞽女の棒、擂粉木に羽根の生えた鳥と、あべこべの見立てを次々に並べる。捕えようとすれば飛んで逃げる鳥を釣瓶棹で狙い、餌差か連木の鳥かと問答して、瓢箪から駒が出るまで。戯れ拍子に浮かれて走ってゆく、軽妙な滑稽の曲。
あらすじ
どっこい締めたぞ、締めたぞどっこい。おっと、そこらは瓢箪で押さえて見ても、ぬらり、くらり、ぬるりと滑った。逃しゃせぬ。訳も何やら絵に書いた。鳥羽絵というも仇つきの、仇な文句でやってくりょ。思うお方のお声はせいで、揚がるお客の面憎や。「私は始めてそんな事」。聞いてうれしき初雁の、文にも釘のにじり書き。見えぬ按摩や瞽女の棒。己待ちの晩の暗がりが、味な味な縁ではあるまいか。あゝら、あや獅子の十六文で九官鳥は見たれども、擂粉木に羽根が生えて。鳥羽絵はほんに我ながら、おや、馬鹿らしい。いでや捕えてくれんずと、足を延ばして取らんとすれば、鳥はついと飛んで逃げた。ええ、あったら物を。傍にありあう釣瓶棹、狙いすまして見繕い。「お前、餌差か」「知らねども。私や連木の鳥じゃもの。御縁ござらば今度、今度、来てさしねえ」。可笑らし。そりゃ来た、来た、来た。行列揃えて振り込め、振り込め。「よんべも三百張り込んだ」「裸で道中がなるものか」。あれはさのさ、これはさのさ。よい、よい、よや、まかせ、面白や。戯れ拍子に浮かれ来て、瓢箪から駒が出た。滅相な、滅相な。瓢箪で駒に打ち乗り、しゃんく、しゃく。浮きに浮かれて走りゆく。
詞章と現代語訳
どつこい〆たぞ、〆たぞどつこい、オツトそこらは瓢箪で、おさへて見ても〔合〕
どっこい締めたぞ。締めたぞ、どっこい。おっと、そこらは瓢箪で、押さえて見ても。
ぬらり〔合〕
ぬらり。
くらり〔合〕
くらり。
ぬらりくらりぬるりと辷つた、とこまかしてよいとこな、逃しやせぬ
ぬらりくらり、ぬるりと滑った。とこ、まかしてよいとこな。逃しゃせぬ。
訳も何やら絵に書た〔合〕
訳も何やら絵に書いた。
鳥羽絵といふも仇つきの、仇な文句でやつてくりよ
「鳥羽絵」というも仇つきの、仇な文句でやってくりょ。
思ふお方のお声はせいで、揚るお客の
思うお方のお声はせいで、揚がるお客の——
面憎や
面憎や。
私は始めてそんな事
「私は始めて、そんな事」。
聞いて嬉しき初雁の、文にも釘のにぢり書
聞いてうれしき初雁の、文にも釘のにじり書き。
見えぬ按摩や瞽女のぼう〔合〕
見えぬ按摩や、瞽女の棒。
己待の晩の〔合〕
己待ちの晩の——
暗がりが
暗がりが。
味な味な縁では〔合〕
味な、味な縁では——
アヽあるまいか〔合〕
ああ、あるまいか。
アヽラあや獅子の十六文で、九官鳥は見たれども、摺小木に羽根が生へて、鳥羽絵はほんに我ながら、オヤ馬鹿らしい
あゝら、あや獅子の十六文で、九官鳥は見たれども、擂粉木に羽根が生えて。鳥羽絵はほんに我ながら——おや、馬鹿らしい。
いでや捕へて呉れんずと〔合〕
いでや捕えてくれんずと。
足を延ばして取らんとすれば〔合〕
足を延ばして取らんとすれば。
鳥はついと飛で逃た〔合〕
鳥はついと飛んで逃げた。
エゝあつたらものを、傍にありあふ釣瓶棹、ねらひすまして見づくろひ
ええ、あったら物を。傍にありあう釣瓶棹、狙いすまして見繕い。
お前餌差か〔合〕
「お前、餌差か」。
知らねども〔合〕
「知らねども」。
私やれん木の鳥ぢやもの、御縁ござらば今度今度今度来てさしねへ
「私や連木の鳥じゃもの。御縁ござらば今度、今度、今度、来てさしねえ」。
可笑らしそりや来た来た来た
可笑らし。そりゃ来た、来た、来た。
行列揃へて〔合〕
行列揃えて。
振込め振込め〔合〕
振り込め、振り込め。
よんべも三百はりこんだ〔合〕
「よんべも三百張り込んだ」。
裸で道中がなるものか〔合〕
「裸で道中がなるものか」。
あれはさのさこれはさのさ、よいよいよいよいよやまかせ面白や
あれはさのさ、これはさのさ。よい、よい、よい、よい。よや、まかせ、面白や。
戯れ拍子に浮れ来て〔合〕
戯れ拍子に浮かれ来て。
瓢箪から駒が出た
瓢箪から駒が出た。
滅相な滅相な瓢箪で駒に打乗り〔合〕
滅相な、滅相な。瓢箪で駒に打ち乗り。
しやんくしやく、浮に浮れて走りゆく
しゃんく、しゃく。浮きに浮かれて走りゆく。
詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第二編 長唄集(明治四十二年)の校訂本文(著作権消滅)による。繰り返し記号は読みやすく展開した。
本名題は『八重九重花姿絵』(やへこゝのへはなのすがたゑ)。
「鳥羽絵」は鳥羽僧正覚猷に始まるという戯画。手足の細長い人物がおどけて動く絵柄で、江戸中期に流行した。
冒頭は「瓢箪で鯰を押さえる」という禅画の画題による。とらえどころのないもののたとえ。
「己待の晩」は庚申待ちなど、夜通し起きている夜のこと。「餌差」は鳥もちで小鳥を捕る者。
「れん木」は連木、擂粉木のこと。前の「摺小木に羽根が生へて」を受けて、飛べない鳥だと言う。
「よんべも三百はりこんだ」は、昨夜も三百文を張り込んだの意。「裸で道中がなるものか」と受けて、廓の道中を言う。
結びの「瓢箪から駒」は冒頭の瓢箪と呼応する。「しやんくしやく」は駒の足取りの音かと見られる。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「とこまかしてよいとこな」、「あゝらあや獅子の十六文で」、「しやんくしやく」。
原典の四段目は「/\ぬるりと辷つた」と繰り返し記号で始まる。前の二段の「ぬらり」「くらり」を受けたものと見て「ぬらりくらり」と展開した。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。