藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
荻江

雪傘積恋歌ゆきのかさつもるこひか

荻江節  作詞者・作曲者・初演年不詳

雪傘積恋歌 雪をかぶる茶の花
雪をかぶる茶の花

四方の景色も眺めよく、梢に雪の花が咲く冬の景から起こす。茶の花の匂いに昔をしのび、誰が教えずとも妹背を知る鴛鴦に寄せて、恥ずかしい初手の恋を言う。中ほどは「あのさん」に言いたいことも馴れ馴れしくて言えず、その美しい顔で情けというものがないのかと嘆く娘心。後半は君の心を引く三味線の音に、人目をはかる忍び駒、二世も三世も上駒かけて、末を頼みの偕老比翼と続け、薄氷の解けぬ思いを文に数え、結ぶの神に願って、賑わう花の顔見世で納める。『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。

あらすじ

面白や、面白や。四方の景色も眺めよく。梢に雪の花咲いて。よしや世の中、茶の花の匂いも、おのが初昔。昔、昔の鴛鴦鳥。誰教えねど、妹と背の恥ずかしいのが恋の初手。「もうし、あのさん、とんと、ほんぼに言いたいことも」——馴れ馴れしゅうて、言うも言われぬ「なげ島田」。色も香もあるお若衆さんに、わしが心で言わるるものか。ああ、辛気。それ、その美しいその顔で、情けというのがないかいな。いやでも応でも、そうじゃにえ、愛としらしさの花娘。君の心を引く三味線の、糸も恋しき面影は、人目をはかる忍び駒。実そうかえ。二世も三世も上駒かけて、末を頼みの偕老比翼。二つ枕に寝をといな。実そうかえ。恋と情けを汲みてしる流れも、今は薄氷。解けぬ思いを数々の文に、かなで結ぶの神ならめ。ここぞ賑わう花の顔見世。

詞章と現代語訳

おもしろやおもしろや〔合〕〔三ノギン〕よものけしきもながめよく〔合〕こずゑにゆきのはなさいて〔合〕よしやなか

面白や、面白や。四方の景色も眺めよく。梢に雪の花咲いて。よしや世の中——

ちやのはなのにほひもおのがはつむかし〔合〕〔力ン〕むかしむかしのむましどりたれおしへねどいもとせの〔合〕はづかしいのがこひのしよて〔合〕もふしあのさんとんとほんぼに〔ニノギン〕いひたいことも〔合〕なれなれしうて〔ニノヲン〕いふもいはれぬなげしまだ〔合〕いろもかもあるおわかしゆさんにわしがこゝろでいわるゝものかアヽしんき〔合〕それ〔合〕そのうつくしいそのかほでなさけといふのがないかいないやでもおうでもそふじやにゑいとしらしさの〔ユリヲトシ〕はなむすめ

茶の花の匂いも、おのが初昔。昔、昔の鴛鴦鳥。誰教えねど、妹と背の、恥ずかしいのが恋の初手。「もうし、あのさん、とんと、ほんぼに言いたいことも」——馴れ馴れしゅうて、言うも言われぬ「なげ島田」。色も香もあるお若衆さんに、わしが心で言わるるものか。ああ、辛気。それ、その美しいその顔で、情けというのがないかいな。いやでも応でも、「そうじゃにえ」。「いとしらしさ」の花娘。

きみのこゝろをひくさみせんの〔合〕いともこひしきおもかげは〔合〕〔カン〕ひとめをはかるしのびごま〔合〕じつそふかへ

君の心を引く三味線の、糸も恋しき面影は、人目をはかる忍び駒。実そうかえ。

二世にせ三世さんぜも〔合〕かみごまかけて〔合〕すゑをたのみのかいらうび〔合〕〔カン〕ふたつまくらにねをといな〔合〕じつそふかへこひとなさけをくみてしるながれもいまはうすごをりとけぬおもひをかずかずのふみにかなでむすぶのかみならめここぞにぎわふはなのかほみせ

二世も三世も上駒かけて、末を頼みの偕老比翼。二つ枕に寝をといな。実そうかえ。恋と情けを汲みてしる流れも、今は薄氷。解けぬ思いを数々の文に、かなで結ぶの神ならめ。ここぞ賑わう花の顔見世。

この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句・合方の記号は原典のまま段の頭や途中に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。

原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。

「はつむかし」は初昔、新茶の名。前の「茶の花」を受ける。

「むましどり」は鴛鴦鳥(おしどり)。誰が教えずとも夫婦の情を知る鳥として引かれる。

「しのびごま」「かみごま」は三味線の駒。忍び駒は音を小さくする駒、上駒は棹の上端の駒で、「忍ぶ」「神」に言い掛けてある。

「かいらうび」は偕老比翼。偕老同穴・比翼連理を縮めた言い方で、夫婦の契りの深さを言う。

「むすぶの神」は縁結びの神。前の「かなで(奏で)」から三味線の縁語で続ける。

語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「とんとほんぼに」、「なげしまだ」、「そふじやにゑ」、「いとしらしさの」(「愛(いと)しらしさ」と見たが断じきれない)。

作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。