閏のまくらねやのまくら
荻江節 作詞者・作曲者・初演年不詳

閨の枕がものを言うなら、これほど物思いはすまいに——ひょんな人に思い初め、見初めた目から忘れられぬ。ままにならぬは人心、と嘆く、ごく短い恋の小品。「命を参らせ候」という手紙の結び文句を取り込むのが眼目。原典の題名は「閏のまくら」と書いて「ねやのまくら」と読む。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
閨の枕がものを言うなら、これほど物思いはすまいに。ひょんなお人に思い初め、見初めた目から忘れられぬ。ままにならぬは人心。情けの花や散らし書き——ほんに、命を参らせ候の。留めて、寝間着の末はものかは。
詞章と現代語訳
ねやのまくらがものいはゞ、これまでものはおもふまじ、ひよんな、おひとに、おもひそめ、見そめし目よりわすられぬ
閨の枕がものを言うなら、これほど物思いはすまいに。ひょんなお人に思い初め、見初めた目から忘れられぬ。
まゝにならぬはひとごころ
ままにならぬは、人心。
なさけのはなやちらしがき、ほんにいのちをまいらせそろの
情けの花や散らし書き——ほんに、命を参らせ候の。
とめてねまきのすゑはものかは
留めて、寝間着の末はものかは。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、合方の指示は省いた。原典は題名を「閏のまくら」と書き、ふりがなを「ねやのまくら」とする。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「散らし書き」は文字を散らして書く書きぶり。恋文の趣で、「情けの花や」から続ける。
「命を参らせ候」は女文の結び文句「かしく」に添えて用いる言いまわしで、命を差し上げますの意。恋文の型をそのまま取り込んでいる。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「とめてねまきのすゑはものかは」の切れ方。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。