長生ちやうせい
清元 本名題『栄能春延寿』 作詞者・作曲者・初演年不詳

正月の「お初」尽くしの祝儀曲。「長生の家こそ」と目出度く起こし、老いせぬ門の若水汲み、お湯殿始め、書き初め、着衣始めの伊達小袖、弾き初めの琴と、新年の初事を若夫婦の睦まじさに重ねて詠み継ぐ。「ふきといふも草の名、めうがといふも草の名」——富貴と冥加の言祝ぎをはさみ、松囃子、四海波静かの謡、射初めの弦の音、福引と続いて、後半は勇ましい乗初め。飾り立てた黒の駒に金覆輪の鞍、轡の音もりんりんがらがら、はいどうはいどうと乗り回すお馬乗初めの面白さ。結びは春駒から芦原の国の青海波、亀の齢の万々歳と納める。新年の席・お茶席に向く、明るく品のよい一曲。
あらすじ
長生の家こそ——。老いせぬ門の和歌和歌と、若水汲みの朝わかき、お湯殿始め、庭竃。煙ぞ今日の初霞、棚引きにけり。ひと刷毛に、絵の書き初めの熨斗宝珠。玉の櫛笥に髪飾る、白紅と、ゑもと結。結ぶ縁の妹と背も、命長かれ、諸白髪まで変わらぬ仲と、睦まじ月の着衣始め。流行模様の伊達小袖。仇と色とを、濃い紫の、十九や二十は色盛り。なまめく風を姿見に、写せば恋の十寸鏡。月の眉墨、花の顔、雪の肌の衣紋つき。掻取りしとどと振る袂、ゆらな手元に爪琴の。ふきと言うも草の名、めうがと言うも草の名。富貴自在、徳ありて、冥加あらせ給えや。春の花のきんぎょく、くわふうらくに流花、えんえんの鶯は、同じ曲を囀る。弾き初め歌う連れ唄や。その色糸の音に通う、峰の松風、松囃子。四海波静かにて、静かにて、国も治まる代々のためし。射初め長閑に弦の音、射垜のほとりに菫、鼓草。春の姿の山笑う。笑う家には福引の、手に糸遊ぶ綱手縄、真紅の色の厚房や、飾り立てたる黒の駒。誰言わねども御召ぞと、対の口取り、鮫鞘を、踵うたせて落とし差し、揃う奴の声ぞろえ。二人つんつん連れ立ち、さあさあ行くべい、さあ行くべい。うれし、めでたのな、日の出まばゆき金覆輪の、鞍は梨地の鐙にあおり、手綱かい繰り、しっとん、しっとん。竜口切りを乗り回し、くるりくるり、くるくるくると、車にあらぬ輪乗りの拍子と、轡の音がりんりん、がらがら、りんがら、りんがら。はいどう、はいどう。はい、はい、はい。さてさて見事なお馬乗初め、勇ましき。勇む春駒、芦原の、国もめでたき青海波。亀の齢の万々歳、尽きせぬ御代こそめでたけれ。
詞章と現代語訳
長生の家こそ
長生の家こそ——。
老せぬかどの和歌和歌と、若水汲の朝わかき、お湯殿始庭竃、煙ぞ今日の初霞、棚引にけり〔合〕一ト刷毛に、絵の書初の熨斗宝珠
老いせぬ門の和歌和歌と、若水汲みの朝わかき、お湯殿始め、庭竃。煙ぞ今日の初霞、棚引きにけり。ひと刷毛に、絵の書き初めの熨斗宝珠。
玉の櫛笥に髪飾る、白紅とゑもと結、
玉の櫛笥に髪飾る、白紅と、ゑもと結。
結ぶ縁の妹と背も、命ながかけ諸白髪迄、変らぬ中と睦し月の着衣〔合〕流行模様の伊達小袖〔合〕
結ぶ縁の妹と背も、命長かれ、諸白髪まで変わらぬ仲と、睦まじ月の着衣始め。流行模様の伊達小袖。
仇と色とを濃い紫の、十九や二十は色盛〔合〕
仇と色とを、濃い紫の、十九や二十は色盛り。
なまめく風を姿見に〔合〕
なまめく風を姿見に。
写せば恋の十寸鏡
写せば恋の十寸鏡。
月の眉墨〔合〕花の顔、雪の肌の衣紋つき〔合〕
月の眉墨、花の顔、雪の肌の衣紋つき。
かいどりしとゝ振る袂、ゆらな手元につま琴の〔合〕
掻取り、しとどと振る袂、ゆらな手元に爪琴の。
『ふきと言ふも〔合〕草の名〔合〕めうがと〔合〕言ふも草の名〔合〕富貴自在徳ありて〔合〕冥加あらせ〔合〕給へや、春の花のきんぎよく、くはふうらくに流花ゑんゑんの黄鳥は、同じ曲を囀る
ふきと言うも草の名、めうがと言うも草の名。富貴自在、徳ありて、冥加あらせ給えや。春の花のきんぎょく、くわふうらくに流花、えんえんの鶯は、同じ曲を囀る。
弾初うたふつれ唄や
弾き初め歌う連れ唄や。
そのいろ糸の音にかよふ〔合〕峰の松風松囃子、四海波静にて静にて、国も治まる〔合〕代々のためし、射初長閑に弦の音、射垜も菫〔合〕鼓草、春の姿の山笑ふ、笑ふ家には福引の、手に糸遊ぶ綱手縄、真紅の色の厚房や〔合〕飾りたてたるくろの駒〔合〕誰言はねども御召ぞと〔合〕対の口取さめ鞘を、踵うたせて落し差、揃ふ奴の声そろへ
その色糸の音に通う、峰の松風、松囃子。四海波静かにて、静かにて、国も治まる代々のためし。射初め長閑に弦の音、射垜のほとりに菫、鼓草。春の姿の山笑う。笑う家には福引の、手に糸遊ぶ綱手縄、真紅の色の厚房や、飾り立てたる黒の駒。誰言わねども御召ぞと、対の口取り、鮫鞘を、踵うたせて落とし差し、揃う奴の声ぞろえ。
二人つんつん連立ち、サアサア行べいサア行べい、嬉し目出度のナ日の出まばゆき〔合〕金覆輪の〔合〕鞍は梨地の蹬にあをり〔合〕手綱かい繰りしつとんしつとん〔合〕りうぐちきりを乗廻し、くるりくるりくるくるくると〔合〕車にあらぬ輪乗の拍子と〔合〕轡の音がりんりんがらがら、りんがらりんがら〔合〕はいどうはいどう、はいはいはい、扨々見事なお馬乗初勇ましき
二人つんつん連れ立ち、さあさあ行くべい、さあ行くべい。うれし、めでたのな、日の出まばゆき金覆輪の、鞍は梨地の鐙にあおり、手綱かい繰り、しっとん、しっとん。りうぐちきりを乗り回し、くるりくるり、くるくるくると、車にあらぬ輪乗りの拍子と、轡の音がりんりん、がらがら、りんがら、りんがら。はいどう、はいどう。はい、はい、はい。さてさて見事なお馬乗初め、勇ましき。
勇む春駒芦原の、国も目出度き青海波、亀の齢の万々歳、尽せぬ御代こそ目出度けれ。
勇む春駒、芦原の、国もめでたき青海波。亀の齢の万々歳、尽きせぬ御代こそめでたけれ。
詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第三編 清元集(明治四十二年)の校訂本文(著作権消滅)による。繰り返し記号は読みやすく展開し、合方の指示は省いた。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による(「くるり」「りんがら」「はいどう」などの囃子詞)。
本名題は『栄能春延寿』(さかえのはるのぶることぶき)。作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。
正月の初事尽くし。若水汲み・お湯殿始め・庭竃・書き初め・着衣始め・弾き初め・射初め・福引・乗初めと、新年の「お初」を若夫婦の睦まじさに重ねて詠み継ぐ。
「ふきといふも草の名、めうがといふも草の名」は、蕗(富貴)と茗荷(冥加)の掛詞による言祝ぎの決まり文句。「四海波静にて」は謡曲『高砂』の待謡の文句。「山笑ふ」は春の山の形容。
「射垜」(あづち)は弓の的を掛ける土の盛り。「鼓草」はたんぽぽの異名。「綱手縄」「厚房」「金覆輪」「梨地」「鐙」「轡」は馬具の名で、後半の乗初めの場を彩る。「落し差」は刀を深く差すこと。
「和歌和歌と」は若々(わかわか)に和歌を掛けたもの。「ゑもと結」は結髪の名と見られる。
語義・読みの定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「きんぎよくくはふうらくに流花ゑんゑんの黄鳥は同じ曲を囀る」(唐土の楽曲・庭園の名を連ねた謡いがかりの文句と見られるが、切り方が定めがたい)、「ゆらな手元」、「りうぐちきり」(馬の乗り方の名か)、「しとゝ振る袂」。
流儀・稽古本によって仮名遣いや字句に異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。