袖の香そでのか
作詞者・作曲者・初演年不詳 目次の題名「そのか」

源氏梅・軒端の梅・紅梅・一重梅と梅の品種を数え上げ、そこへ源氏物語・和泉式部・清少納言と王朝の名を織り込む、梅尽くしの小品。嵐が運んでくる留め香から、おのが袖の香に言い納める。ことば遊びが密で、語義の定めがたい語がいくつか残る。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。
あらすじ
姿はすねたふうに咲いて、花のなりは美しい源氏梅。誰もが心を遣る「やり梅」。和泉式部といえば軒端の梅、清少納言の世話ごとは——恋も憂きも、濃いも薄きも紅梅や、「いたりほうし」の一重梅。どれもこれも九重の内。霞を漏れて吹く嵐も、香を持って来てはしばしの留め香。その身ごなしも、おのれの香に飽かぬ色香——袖の梅。
詞章と現代語訳
すがたはすねて咲花のなりはいつくし源氏梅
姿はすねたふうに咲いて、花のなりは美しい源氏梅。
たれも心をやりむめの、和泉式部が軒端の梅、清少納言のせわごとは
誰もが心を遣る「やり梅」。和泉式部といえば軒端の梅、清少納言の世話ごとは。
こいもうすきも紅海や、いたりほうしが一重むめ、いづれかいづれ九重に
恋も憂きも——濃いも薄きも紅梅や、「いたりほうし」の一重梅。どれもこれも、九重の内に。
かすみをもれてふくあらしも、て来てしばしとめ香の、そのしこなしも、おのが香にあかぬいろかや、そでのむめ
霞を漏れて吹く嵐も、香を持って来てはしばしの留め香。その身ごなしも、おのれの香に飽かぬ色香——袖の梅。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)による。原典は目次の題名を「そのか」、本文の題名を「袖の香」とする。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
源氏梅・軒端の梅・紅梅・一重梅と、梅の名を数え上げる梅尽くし。「軒端の梅」は和泉式部ゆかりの梅で、謡曲『東北』に見える。「九重」は宮中の言い換えで、梅の八重一重の縁で言い掛ける。
「紅海」は紅梅の当て字で、原典のまま残した。「こいもうすきも」は恋と濃いの掛詞。
「留め香」は焚き留めた移り香。結びは、梅の香とわが袖の香を重ねて納める。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「すがたはすねて」の係り、「やりむめ」「せわごと」「いたりほうし」「そのしこなし」。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。