猫の妻ねこのつま
荻江節 目次・本文の題名「ねこのつま」 作詞者・作曲者・初演年不詳

三年馴染んだ猫を三味線の皮になぞらえ、中継の棹・鼈甲の撥・三の糸・糸巻と、三味線の部分の名に恋の文句を言い掛けてゆく、道具尽くしの珍しい小品。結びは「音締めは一期忘れむ」——その音色は生涯忘れない、と納める。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
三年馴染んだ猫の妻も、もし恋い死んだなら三味線の皮——かわいいものよ。色に惹かれる中継の棹は、契りの唐木、鉄刀木。逢わぬつらさは、どの神の——鼈甲の撥当たり、罰当たり。三の糸は切れても二世の縁、思い切られぬ糸巻の、絶えて音締めは一期忘れむ。
詞章と現代語訳
みとせなじみし猫のつま、もし恋しなば三味線のかわいのものよ
三年馴染んだ猫の妻——もし恋い死んだなら、三味線の皮。かわいいものよ。
色にひかるゝ中継のさほはちぎりのたがやさん
色に惹かれる中継の棹は、契りの唐木、鉄刀木。
あはぬつらさはどのかみごまのばちあたり
逢わぬつらさは、どの神の——「かみごま」の撥当たり、罰当たり。
三ンはきれても二世のゑん、おもひきられぬいとまきのたえてねじめはいちご忘れむ
三の糸は切れても、二世の縁。思い切られぬ糸巻の——絶えて、その音締めは一期忘れまい。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残した。原典は目次・本文とも題名を「ねこのつま」とする。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
三味線の胴には猫の皮を張る。「猫の妻」から「かわいのものよ」(皮=可愛い)へ言い掛けるのが眼目で、以下も三味線の部分尽くしになっている。
「中継」は三味線の棹の継ぎ目。「たがやさん」は鉄刀木、棹に使う唐木で、「契り」の縁語に用いる。
「かみごま」は鼈甲の撥のことか。「撥当たり」に「罰当たり」を掛ける。
「三の糸」は三味線のいちばん細い糸。「糸巻」は糸を巻く軸。「音締め」は糸を締めて音を整えること、またその音色をいう。
「一期」は一生涯。結びは、その音色を生涯忘れまい、の意と読んだ。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。