藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
荻江

爪音幸紋尽しつまおとさいはひもんづくし

荻江節  作詞者・作曲者・初演年不詳

爪音幸紋尽し 富士を望む三味線
富士を望む三味線

家紋の名を寄せる紋尽くし。千代の春、白妙の富士の高嶺から起こし、陣屋の紋を次々に数えてゆく。釘抜き・松皮・三蓋松・繋ぎ馬・一文字・割菱・輪違い・花靫・庵に木瓜・抱き茗荷・抱き沢瀉・三つ鱗・立烏帽子・折烏帽子・矢筈・月に星・三本唐傘・二つ引・四つ目結・網の手・水車・二つ巴・三つ巴・扇に舞鶴——と続け、結びは「大一大万大吉」の旗印から馬の乗り初め・弓始めへ、そして曽我兄弟で名高い富士の巻狩りで納める。『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。本文の題名は『つま音さいわゐ絞づくし』。

あらすじ

千代の春。花に移ろう蝶、百千鳥、しおらしや。うち出でて見れば、白妙の富士の高嶺の薄霞。裾野は露のぴかぴかと、朝日輝く御威勢。君を始めたてまつり。五月下旬は我々も、葉ばかりながら御蔵蔭。陣屋、陣屋の紋尽くし。釘抜き、松皮。三蓋松に、しゃんと手綱も繋ぎ馬。白一文字、黒一文字、割菱、輪違い、花靫。花の色香も名にし負う、庵に木瓜、抱き茗荷、抱き沢瀉。人が三つ鱗でも、ままとは立烏帽子。その折烏帽子、矢筈や筈にいや増しは、月に星。笠を召したか、三本唐傘。差す手引く手に二つ引、四つ目結。網の手。清き流れの水車。くるくると二つ巴や三つ巴。打つや太鼓の拍子とりどり。開く扇の舞鶴は、大一大万大吉日と、馬の乗り初め、弓始め。各々も誉れを残す、富士の巻狩り。

詞章と現代語訳

〔三下り〕

千代ちよのはる。はなにうつろふてふもゝちどりしほらしやうちいでればしろたえの。ふじのたかねのうすがすみ。すそのはつゆのぴかぴかと。あさひかゞやくゐせいきみをはじめたてまつり

千代の春。花に移ろう蝶、百千鳥、しおらしや。うち出でて見れば、白妙の富士の高嶺の薄霞。裾野は露のぴかぴかと、朝日輝く御威勢。君を始めたてまつり。

さつきげじゆんはわれわれも。ばかりながらくらかげぢんぢんのもんづくし

五月下旬は我々も、葉ばかりながら御蔵蔭。陣屋、陣屋の紋尽くし。

くぎぬきまつかはむらごう。さんがいまつにしやんとたづなもつなぎむま、しろいちもんじ、くろいちもんじ、わりびし、わちがひ、はなうつぼ

釘抜き、松皮、「木むらごう」。三蓋松に、しゃんと手綱も繋ぎ馬。白一文字、黒一文字、割菱、輪違い、花靫。

はなのいろかもなにしおふいほりにもつかう、だきみやうが。だきをもだかとなあゝ。ひとつうろこでも。ままとはたてゑぼし。そのをりゑぼし、しのぶよのはづやはづにいやましは。つきにほし

花の色香も名にし負う、庵に木瓜、抱き茗荷。抱き沢瀉となあ。人が三つ鱗でも、ままとは立烏帽子。その折烏帽子、忍ぶ夜の手、矢筈や筈にいや増しは、月に星。

かさをめしたかさんぼんからかさ。さすひくてにふたびきつへいじ、つめゆひ。あみのやいたらがい

笠を召したか、三本唐傘。差す手引く手に二つ引、三つ「へいじ」、四つ目結。網の手や「いたらがい」。

きよきながれのみづぐるま。くるくるくるとふたつどもへやつどもへ。うつや太鼓たいこのひやうしとりどり。ひらくあふぎのまひづるは

清き流れの水車。くるくるくると二つ巴や三つ巴。打つや太鼓の拍子とりどり。開く扇の舞鶴は——

大一だいいちだいまん大吉日だいきちにちとむまののりぞめゆみはじめ。しやうらんありておのおのもほまれをのこす、ふじのまきがり

「大一大万大吉」日と、馬の乗り初め、弓始め。「しょうらん」ありて、各々も誉れを残す——富士の巻狩り。

この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。原典は二段だが、段の切れ目はこちらで読みやすく分け直した。

原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。本文の題名は『つま音さいわゐ絞づくし』。

「爪音」は三味線を弾く音。「幸紋尽し」は縁起のよい家紋の名を寄せること。

紋の名を寄せる。釘抜き・松皮(松皮菱)・三蓋松・繋ぎ馬・一文字・割菱・輪違い・花靫・庵に木瓜・抱き茗荷・抱き沢瀉・三つ鱗・立烏帽子・折烏帽子・矢筈・月に星・三本唐傘・二つ引・四つ目結・網の手・水車・二つ巴・三つ巴・扇に舞鶴。

「大一大万大吉」は三好氏の旗印として知られる文句。「一人が万民のため、万民が一人のために尽くせば天下は吉」の意という。

「ふじのまきがり」は源頼朝が富士の裾野で催した巻狩り。曽我兄弟の敵討ちで名高い。曲の初めの富士と呼応する。

語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「木むらごう」、「御くらかげ」、「だきをもだかとなあゝ」、「三つへいじ」、「いたらがい」、「しのぶよの手はづやはづ」(矢筈と筈を掛けるかと見られるが切り方が定めがたい)、「しやうらんありて」。

作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。