恋のぬれぎぬこひのぬれぎぬ
荻江節 作詞者・作曲者・初演年不詳

夜が白々と明ける雪の朝、身は濡れ衣——石より堅い契りも淡雪と消えた別れのはかなさを嘆き、恋しいときは夜の衣の狭筵にともに嘆こうと呼びかけ、涙の滝のしがらみは誰が止めようか、と納める小品。「濡れ衣」は雪に濡れた衣に、無実の罪の意を重ねる。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
見上げれば、夜も白々と——白雪の。身は濡れ衣、石より堅い契りをも、みな淡雪と消えた別れの、はかなさよ。せめて恋しいときは、ぬばたまの夜の衣の狭筵に、ともに嘆こう。小夜千鳥——訪うならば、落ち出でよ。語る間も、涙の滝のしがらみは、誰が止めようか。わが思いは。
詞章と現代語訳
見あぐれば夜もしらじらとしらゆきの
見上げれば、夜も白々と——白雪の。
身はぬれぎぬの、いしよりかたきちぎりをも
身は濡れ衣。石より堅い契りをも。
みなあはゆきときへしわかれの、はかなさよ
みな淡雪と消えた別れの、はかなさよ。
いとせめてこひしきときは、うばたまのよるのころものさむしろに、ともになげかん
せめて恋しいときは、ぬばたまの夜の衣の狭筵に、ともに嘆こう。
さよちどり
小夜千鳥よ。
とふにやおちいでよ、かたるまもなみだのたきのしがらみは、たれかとまらんわがおもひ
訪うならば、落ち出でよ。語る間も、涙の滝のしがらみは、誰が止めようか。わが思いは。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、繰り返し記号は読みやすく展開し、合方の指示は省いた。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「濡れ衣」は雪や涙にぬれた衣に、無実の罪を着せられる意を掛ける。曲名にあたる。
「ぬばたまの」は夜・黒などにかかる枕詞。「さむしろ」は狭い筵で、独り寝の床をいう。
「しがらみ」は流れをせき止める柵。「涙の滝のしがらみは誰か止まらん」は、あふれる涙を誰も止められないの意。
「小夜千鳥」は夜の千鳥。「訪ふにや落ち出でよ」は、訪ねてくるなら降りて来いと呼びかける意と読んだ。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。