小夜あらしさよあらし
作詞者・作曲者・初演年不詳 本文の題名「さよあらし」

逢い初めてからのもの思いを、よその睦まじい仲へのうらやみと、ひとり焦がれる夜半の戸を叩く夜嵐に託した恋の小品。中ほどに「此間せりふあり」と原典の注記があるが、台詞そのものは正本に載っていない。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。
あらすじ
逢い初めてからというもの、今のこの身はもの思いばかり。心の底は晴れる間もない。誰かが色に染めて仕立てた恋衣——よその睦言までもうらやましい、よい仲どうしのささやきごと。定めのないことよ、浮き鳥のように。通ってくる翼の香を求めて、妹背はひとつに恋の種。ひとり焦がれる夜半の戸を、訪れて吹く小夜嵐。
詞章と現代語訳
逢い初めて
逢い初めて。
いまのこの身のものおもひ
今のこの身の、もの思い。
晴るゝ間もなき下心、誰が色染めて恋ごろも、むつごとまでもうらやまし、よい中どうしのさゝめごと、さだめなきかな浮きどりの
晴れる間もない心の底。誰かが色に染めて仕立てた恋衣——よその睦言までもうらやましい、よい仲どうしのささやきごと。定めのないことよ、浮き鳥のように。
かよふ翼の香をとめて、妹背ひとつに恋の種、ひとり焦がるゝ夜半の戸に、おとづれて吹く小夜あらし
通ってくる翼の香を求めて、妹背はひとつに恋の種。ひとり焦がれる夜半の戸を、訪れて吹く小夜嵐。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、合方の指示は省いた。原典の本文の題名は「さよあらし」。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「此間せりふあり」は原典の注記のまま残した。ここに台詞が入るが、その文句は正本に載っていない。
「小夜あらし」は夜の嵐。訪れない人の代わりに戸を叩くものとして、閨怨の結びによく使われる景物である。
「浮き鳥」は水に浮かぶ鳥。定めない身の上のたとえ。「翼の香」は通ってくる人の移り香を鳥の翼に見立てたものと見られる。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。