官女(七変化)かんぢよ(しちへんげ)
長唄 本名題『雛祭神路桃』 作詞者・作曲者・初演年不詳
/官女(七変化)_雛壇の三人官女.jpg)
七変化の官女の段。『和漢朗詠集』に名高い「長生殿の裏には秋夜長し 不老門の前には日月遅し」の対句を引いて、宮中の悠久を寿ぐ。庭池の亭の春風、月よりも花よりも紅葉よりもなお恋しい人の閨——と転じ、閨の扇の絵空事に思いを増して、たまに逢う夜の言の葉のゆかしさで納める、短くも品のよい一段。
あらすじ
長生殿の内には秋深く、不老門の前には日も傾かず。月はなお。庭池の亭の春風。月よりも、花よりも、紅葉よりもなお恋しき人の、閨の内、見たい物じゃ、物じゃ。閨の扇の絵空事かえ、思いの増すわいな、扇の絵。閨の扇の絵空事かえ、思いの増すわいな。たまに逢う夜の言の葉ゆかし。
詞章と現代語訳
長生殿のうちには秋ふかく〔ヲン〕不老門のまへには日もかたむかず。月はなを
長生殿の内には秋深く、不老門の前には日も傾かず。月はなお——
ていけのちんの春風〔ギン〕月よりも花よりも
庭池の亭の春風。月よりも、花よりも——
紅葉よりもなを恋しき人の閨の内見たい物じゃ物じゃ
紅葉よりもなお恋しき人の、閨の内、見たい物じゃ、物じゃ。
ねやの扇のゑそらごとかへ思ひのますわいな扇のゑ
閨の扇の絵空事かえ。思いの増すわいな、扇の絵。
閨の扇のゑそらごとかへおもひのますわいな〔合〕〔ハル〕たまにあふよのことのはゆかし
閨の扇の絵空事かえ。思いの増すわいな。たまに逢う夜の言の葉、ゆかし。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、章句・合方の記号は原典のまま段の頭や途中に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。
原典は総かな書きの部分が多いため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
本名題は『雛祭神路桃』(ひなまつりかみじのもも)。七変化のうちの一曲で、ほかに傾城・官女・山賎・布曝・春駒・杜若・槍踊がある。
「長生殿のうちには秋ふかく不老門のまへには日もかたむかず」は『和漢朗詠集』の「長生殿裏春秋富 不老門前日月遅」による。長生殿・不老門はどちらも唐の宮殿の名で、天子の長寿を寿ぐ句。
「ていけのちん」は庭池の亭。庭の池に臨む建物のこと。
「ゑそらごと」は絵空事。絵に描いたようなあてにならないこと。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。