よつのそでよつのそで
荻江節 作詞者・作曲者・初演年不詳

憂き中のならいと知っていたら、これほど深くはならなかったのに——花の夕べの契りも、初めの情けが今は仇。いっそ逢わなければこうもならなかった、と嘆き、涙の雨に四つの袖が朽ちてゆく、と納める小品。「四つの袖」は寄り添うふたりの袖を合わせた数で、二人の仲そのものをいう。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
憂き中のならいと知っていたら、これほどまでには。花の夕べの契りとなるのも、初めの情けが今は仇。いっそ逢わなければ、こうしたこともほんにあるまい。よしないつらさよ。仇に暮らした月日のほどを、言わず——思いの涙の雨に、いよいよ朽ちてゆく、四つの袖。
詞章と現代語訳
うき中のならひとしらば、かくばかり
憂き仲のならいと知っていたら、これほどまでには。
はなのゆふべのちぎりとなるも、はじめのなさけいまのあだ
花の夕べの契りとなるのも——初めの情けが、今は仇。
いつそあはねばかふしたこともほんにあるまい、よしなやつらや
いっそ逢わなければ、こうしたこともほんにあるまい。よしないつらさよ。
あだにくらせしつきひのほどを言はず、おもひのなみだのあめに、いとゞくちなんよつのそで
仇に暮らした月日のほどを、言わず——思いの涙の雨に、いよいよ朽ちてゆく、四つの袖。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、合方の指示は省いた。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「四つの袖」は男女それぞれの左右の袖を合わせた数で、寄り添うふたりの仲をいう。涙にぬれて朽ちる袖は恋の嘆きの定型。
「うき中」は憂き仲に、はかない世の中の意を重ねる。「よしなや」はよしない、かいのないの意。
「はなのゆふべのちぎり」は花の散る夕べの契りで、はかなさを含む言いまわし。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。