めんかぶりめんかぶり
荻江節 作詞者・作曲者・初演年不詳

子どものいたいけな姿を愛でる詞から起こし、赤子をあやす手遊びの詞——ちょちちょち、あわわ、頭てんてん——を並べ、起き上がり小法師や犬張子、猿の相撲へ移る。中ほどは「名ばかり坊さま」「名ばかり禿」の言い立てを対にして、賀茂の競馬から膝栗毛、お馬が三匹の馬づくしへ転じ、波打ち際に春駒で納める。遊びの詞と囃子詞を綴った、はやし物の一曲。『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
とかく子どもたちゃ、いたいけがよいものじゃ。あだに覚むれば、ちょち、ちょち、あわわ。かむり、かむり。頭てんてん。雀の小躍り。その尾に取りつき、太郎松、米松。取りつき、引っつき、竿になって。縫う蝶、鳥の花にくる、くる。くるくるりと、鼻を振り、振り袖。いたずらや。祭り、祭り。ここまでござれ、手車に乗せて。起き上がり小法師、犬張子。猿の相撲に、上がったり下がったり。いかなる悪さ盛りも、こちのほうへござれ。はい人形、金平。桜に猿が三千、ぶらりとささがって。俵転びに、ころりゃ、ころりゃ。ぬめらしゃんすな、のう。小猿めが枝に戯れ遊ぶ。わしに焦がるる夢を見た。除けの守りを掛けて参ろ、それさまへ。坊さま、坊さまと名ばかり坊さま。衣いやなり、女郎衆と寝たし。それで坊さまと言われようものか。禿、禿と名ばかり禿。馴染むお客に痴話する目もと。それで禿と言わるるものか。今の言の葉、口々に。賀茂の競馬も膝栗毛。真紅の手綱に煽りを打って、乗り掛けぞん。お馬が三匹、乗り手は一人。はい、どう、はい、どう。駆けつ返しつ、桜の花よ。波打ち際に、ざんぶと寄せては、えい、えい、わい。よい、さむ——春駒。
詞章と現代語訳
とかく子どもたちやいたいけがよいものじや
とかく子どもたちゃ、いたいけがよいものじゃ。
おろろとあらゝ、のらゝとおろゝ、あだにさむれば、てうちてうちあわゝ、かむりかむり、しほのめ、あたまてんてん、よこまどり、すゞめのこおどり
「おろろとあらら、のらら とおろろ」。あだに覚むれば、ちょち、ちょち、あわわ。かむり、かむり。「しほのめ」。頭てんてん。「よこまどり」。雀の小躍り。
そのをにとりつき、太郎松よね松、たんたんかいつき、とりつきひつつき、さほになつてぬふてふ鳥の、花にくるくるくるくる、くるくるりとはなをふり袖
その尾に取りつき。太郎松、米松。「たんたん、かいつき」。取りつき、引っつき、竿になって。縫う蝶、鳥の——花にくる、くる、くる、くる。くるくるりと、鼻を振り、振り袖。
いたづらやまつりまつり、ちんがらこ、こゝまでござれ、手ぐるまにのせて、ありやこりや
いたずらや。祭り、祭り。「ちんがらこ」。ここまでござれ、手車に乗せて。ありゃ、こりゃ。
おきやがりこぼし、いぬはりこ、さるのすまふにあがつたりさがつたり、ゑゝゑゝゑゝ、いかなるわるさ盛も、こちのてうへござれ
起き上がり小法師、犬張子。猿の相撲に、上がったり下がったり。ええ、ええ、ええ。いかなる悪さ盛りも、こちの「てう」へござれ。
のはつてはつてはい人ぎやう、きんぴら、だんべいさがた、さくらにさるが三千ぶらりとささがつて、たわらころびにころりやころりや、やつころりとぬめらしやんすなのふ
「のはって、はって、はい人形」。金平、「だんべいさがた」。桜に猿が三千、ぶらりとささがって。俵転びに、ころりゃ、ころりゃ、やっ、ころりと。ぬめらしゃんすな、のう。
やれやれ、さてものさてものつくにまさるがしほらしや
やれ、やれ。さてもの、さてもの。「つくにまさる」が、しおらしや。
こざるめが枝にたわむれあそぶ、わしにこがるゝ夢を見た、まもりをかけさへよけのまもりを、サまもりをサ、かけてまいろそれさまへ
小猿めが枝に戯れ遊ぶ。わしに焦がるる夢を見た。守りを掛けさえ、除けの守りを——サ、守りを、サ——掛けて参ろ、それさまへ。
ぼさまぼさまと名ばかりぼさま、ころもいやなり、女郎しゆとねたし、それでぼさまといはれふものか、それじゃそれじゃそふさんせ
坊さま、坊さまと、名ばかり坊さま。衣いやなり。女郎衆と寝たし。それで坊さまと言われようものか。それじゃ、それじゃ、そうさんせ。
かぶろかぶろとなばかりかぶろ、なじむおきやくにちわするめもと、それでかぷろといはるゝものか、それじゃそれじゃそふさんせ
禿、禿と名ばかり禿。馴染むお客に、痴話する目もと。それで禿と言わるるものか。それじゃ、それじゃ、そうさんせ。
いまのことの葉くちぐちに、かものけいばもひざくりげ、あかがいのあかがいの、しんくのたづなにあをりをうつて、かけぞんかけぞん、のりかけぞん
今の言の葉、口々に。賀茂の競馬も膝栗毛。赤貝の、赤貝の、真紅の手綱に煽りを打って。掛けぞん、掛けぞん、乗り掛けぞん。
おむまが三びき、のりてはひとり、はいどうはいどう、かけつかへしつ、はいおふてばゝさきさくらの花よ
お馬が三匹、乗り手は一人。はい、どう。はい、どう。駆けつ返しつ。「はいおふてばゝさき」、桜の花よ。
なみうちぎはになみうちぎはに、ざんぶとよせてはゑいゑいわい、とつぱいひやろのひ、のんほのん、よいさむ春ごま
波打ち際に、波打ち際に、ざんぶと寄せては、えい、えい、わい。「とっぱいひやろのひ、のんほのん」。よい、さむ——春駒。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)による。原典は章句の記号を持たない一続きの本文で、段の切れ目はこちらで読みやすく分けたものである。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「てうちてうちあわゝ」「あたまてんてん」は赤子をあやす手遊びの詞。今の「ちょちちょちあわわ」「おつむてんてん」にあたる。
「おきやがりこぼし」は起き上がり小法師、「いぬはりこ」は犬張子。どちらも子どもの玩具で、産育の祝いにも用いた。
「きんぴら」は金平浄瑠璃の坂田金平。強い者のたとえに使う。
「かぶろ」は禿。遊女に仕える少女のこと。原典は二度目を「かぷろ」と半濁点で書いており、そのままにした。
「かものけいば」は賀茂の競馬(くらべうま)。上賀茂神社の神事。
曲名「めんかぶり」は原典に仮名で立項されており、どの字を当てるかは定めがたい。面をかぶる子どもの遊びかとも見られるが、断じきれないため仮名のままとした。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「おろろとあらゝのらゝとおろゝ」、「しほのめ」、「よこまどり」、「たんたんかいつき」、「ちんがらこ」、「こちのてう」、「のはつてはつてはい人ぎやう」、「だんべいさがた」、「ぶらりとささがつて」、「さてものつくにまさる」、「はいおふてばゝさき」、「とつぱいひやろのひ」、「のんほのん」、「よいさむ」。囃子詞や子どもの遊び詞かとも読めるが断じきれない。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。