みなの川みなのがわ
作詞者・作曲者・初演年不詳 目次の題名「はなの川」、本文の題名「歳旦 みなの川」

初春の羽根つきを、若い娘の初々しい姿とともにうたう歳旦の小品。羽子板に描いた比翼紋、突いて逸らさぬ遣り羽子から、筑波山の男女川の縁で「深き心の末かけて」と結ぶ。祝儀の席にふさわしい、明るく品のよい一曲。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。
あらすじ
初空に、羽根の子を澄ます振袖の、しどけない姿かたち。いつしかほんに、初音をおぼえた鶯が、梅にも言わずによそ歩き。つい叱られて、あかねさす——松の緑の羽子板も、妹背を描いた比翼紋。突いて逸らさぬ遣り羽子を、風が落として——男女川。深い心の末かけて、変わらぬ春の遊びであることよ。
詞章と現代語訳
はつ空に
初空に。
はごの子すますふりそでの、しどけなりふり、いつしかほんに
羽根の子を澄ます振袖の、しどけない姿かたち。いつしかほんに。
はつ音おばえてうぐひすの、むめにも言はずよそあるき
初音をおぼえた鶯が、梅にも言わずによそ歩き。
つゐしかられてあかねさす
つい叱られて、あかねさす——頬も赤らむ。
松のみどりのはごいたも、いもせをゑがく比翼紋
松の緑の羽子板も、妹背を描いた比翼紋。
つけてそらさぬやりはごを、風がをとしてみなの川、深きこゝろのすゑかけて、かはらぬ春のあそびかな
突いて逸らさぬ遣り羽子を、風が落として——男女川。深い心の末かけて、変わらぬ春の遊びであることよ。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、合方の指示は省いた。原典は目次の題名を「はなの川」、本文の題名を「歳旦 みなの川」とする。歳旦は元日の意で、正月の祝儀曲であることを示す。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「みなの川」は筑波山に発する男女川。「筑波嶺のみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる」(陽成院)により、恋の積もる縁語として「深き心」へ続ける。
「羽根の子を澄ます」は羽根をつく所作。「遣り羽子」は二人で突き合う羽根つき。「比翼紋」は二つの紋を並べて一つに組んだ意匠で、夫婦和合のしるし。
「あかねさす」は日・昼・紫などにかかる枕詞。ここは叱られて頬の赤らむさまに掛けて用いたものと見られる。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。