あすの鐘あすのかね
長唄 作詞者・作曲者・初演年不詳

「末の松山波も越さじ」の歌に寄せて、来し方をかたみに契る明日の夜。首尾を祈る三角柏、立ち居につけて胸に湧く思いを禊の川社に流し、淵も瀬となる恋の淵と続けて、ままよと寝て明日の鐘を待つ——短いなかに古歌を三つ重ねた小品。『徳川文芸類聚』所収『歌撰集』の本文による。
あらすじ
白波の末の松山。来し方をかたみに契る、明日の夜の。首尾を祈りの三角柏。立ち居し胸の川社。淵も瀬となる恋の淵。ままと寝て待つ、明日の鐘。
詞章と現代語訳
しらなみのすへのまつ山、こしかたをかたみにちぎるあすの夜の〔合〕
白波の、末の松山。来し方をかたみに契る、明日の夜の。
しゆびをいのりのみつがしは〔合〕
首尾を祈りの、三角柏。
たちゐしむねのかはやしろ
「たちゐし」胸の、川社。
ふちも瀬となるこひのふち
淵も瀬となる、恋の淵。
ままとねてまつあすのかね
ままと寝て待つ、明日の鐘。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)による。原典の題名は『あすのかね』。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「しらなみのすへのまつ山」は「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ」(古今集・東歌)による。心変わりのしないことのたとえ。
「ふちも瀬となる」は「世の中は何か常なる飛鳥川昨日の淵ぞ今日は瀬になる」(古今集)による。
「みつがしは」は三角柏。神事で酒や供物を盛るのに用いた柏の葉。「かはやしろ」は川社、みそぎをする川辺の社。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「たちゐしむねの」(立ち居につけての意かと見られるが断じきれない)。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。